造影剤メーカーが2社、まるごと抜けた。何が起きているのか
手を動かすことはありません。少し視点を変えて、いつもの仕事を見てみましょう。
同じ1本の造影剤でも、外来と入院で、病院にとっての意味が変わります。
主任・技師長は、国から「買い込みを控えてほしい」と依頼が出ています。
公開時点の情報です
造影剤の銘柄が減り続けています。薬価基準に載っている造影剤は、2024年2月の225品目から今は142品目です。アルフレッサファーマ(プロスコープ)と武田テバファーマは造影剤から完全に手を引きました。値段が安すぎて作り続けられないためで、国はいま逆に薬価を引き上げています。ウログラフイン注60%の20mLは600円から1,145円へ91%上がりました。
撮影のやり方は何も変わりません。ひとつだけ。厚生労働省が3月5日に病院団体へ出した事務連絡に「買い込みは厳に控えていただき、必要量に見合う適切な量を購入するよう」と書いてあります。品薄と聞いて多めに確保しておく、が、いちばんやってはいけないことになっています。
自分が使っている造影剤の代金を、誰が払っているかが分かります。外来なら薬剤料として請求できます。DPCの入院なら請求できず、病院が払います。そして値上がりが大きい薬ほど、入院で使われる割合が高い。ウログラフインは94.8%が入院です。
メーカーが作って、病院に届きます。ここまでは、ふつうの流れです。まだ、誰かが損をしている話ではありません。
使っていた造影剤の銘柄が、ある日なくなる。
プロスコープが2024年9月で終わりました。アルフレッサファーマの案内には、こう書いてあります。
諸般の事情により現在庫をもちまして、販売を中止させていただくこととなりました
12品目、まるごとです。同じころ、武田テバファーマも造影剤から手を引いています。
2年半で、83品目減った
薬価基準に載っている造影剤を、2024年2月と今(2026年8月)で数えてみました。
225品目 → 142品目。 消えたのが87品目、新しく載ったのが4品目です。
メーカーごとに並べると、もっとはっきりします。
| メーカー | 2024年2月 | 2026年8月 |
|---|---|---|
| アルフレッサファーマ(プロスコープ) | 12 | 0 |
| 武田テバファーマ(「FF」) | 9 | 0 |
| 光製薬(「HK」) | 20 | 2 |
| GEヘルスケアファーマ(オムニパーク ほか) | 41 | 29 |
| バイエル薬品(イオパミロン・イオプロミド ほか) | 39 | 32 |
| カイゲンファーマ(バリウム各種) | 13 | 7 |
| 富士製薬工業(「F」) | 27 | 31 |
2社が造影剤から完全に抜けました。 光製薬も20品目のうち18を落としています。増えているのは富士製薬工業だけです。
消えた87品目のうち23品目は統一名で収載されていたもの(メーカー名が付かない品目)なので、銘柄として消えたのは64品目、という数え方もできます。どちらで数えても、減っているのは変わりません。
消えるのは、値段が安いから
薬の値段(薬価)は国が決めています。それが安すぎると、メーカーは作るほど損をするので撤退します。バリウムでも起きていて、バリコンミールは今年4月に販売中止になりました。
やめられると患者が検査を受けられない。だから国は、いま逆のことをしています。薬価を上げて、作り続けてもらう。
基礎的医薬品と不採算品再算定という仕組みで、今年度の対象品目の一覧が公表されています。そこに造影剤が並んでいます。
| 国の一覧 | 載っている造影剤 |
|---|---|
| 基礎的医薬品 | 25品目 |
| 不採算品再算定 | 7品目 |
中身はこういうものです。基礎的医薬品のほうは、イオパミロン注300・370、イオパミドール「F」各種、イオプロミド「BYL」シリンジ各種、リピオドール480、バリウム各種、ガストログラフイン。不採算品再算定のほうは、ガストログラフイン、ウログラフイン注60%、ビリスコピン点滴静注50、バリブライトP、イオパミドール300・370「F」です。
数え方は成分名で拾っています。「ヨード」で拾うとイソジンやヨードチンキが混ざるので、造影剤の成分だけを先に決めてから数えました。
上げ幅は小さくありません。ウログラフイン注60%の20mLは、2年半で600円が1,145円(+91%)。点滴静注胆道造影に使うビリスコピン点滴静注50は、2,951円が9,441円で3.2倍です。
ただし、上がった分を請求できるとは限らない
ここからが本題です。
外来の場合。 医科点数表の画像診断の通則に、こう書いてあります。
画像診断のために使用した薬剤料は別に算定できる
造影剤の代金は、薬剤料として請求できます。薬価が上がれば、請求できる額も上がる。病院は困りません。
DPCの入院の場合。 こちらは包括です。告示の別表に、所定点数に含まれる費用として並んでいる中に、こうあります。
(6) 第2章第4部画像診断の費用
画像診断の費用がまるごと入っています。ここから外れる(=別に請求できる)のは、画像診断管理加算と、動脈造影カテーテル法の一部だけ。造影剤の代金は外れていません。
つまり、DPCの入院で造影剤を使うと、上がった分は全部その病院が払います。
で、上がった薬ほど入院で使われている
では、どの造影剤がどれくらい入院で使われているのか。NDBオープンデータ(2023年4月〜2024年3月)に、入院と外来が別のシートで載っています。
薬価の動きと並べると、こうなります。
| 造影剤 | 薬価の動き | 入院 |
|---|---|---|
| ウログラフイン注60% 20mL | 600 → 1,145円 | 94.8% |
| ビリスコピン点滴静注50 | 2,951 → 9,441円 | 38.6% |
| オムニパーク300シリンジ100mL | 3,966 → 3,688円 | 19.1% |
| ガドビスト静注シリンジ5mL | 4,448 → 4,108円 | 12.9% |
上の2つは国の一覧に載っている薬で、上がっていて、入院で使われる割合が高い。 下の2つは載っていない薬で、下がっていて、外来が8割以上です。
とくにウログラフインは、値段がほぼ倍になったうえで、94.8%が入院です。上がった分のほとんどが、請求書に乗らずに病院の中で消えています。
⚠️ ただしこれは4品目を並べただけで、そうなるように決まっている、という話ではありません。因果は確かめていません。
技師が押しているボタンの、向こう側
ここまでを1本の造影剤に戻すと、こうなります。
同じ造影剤を1本使っても、外来か入院かで、病院にとっての意味が逆になります。 外来なら請求書に乗る。入院なら病院が払う。
技師は「今日この検査です」と言われて撮ります。外来か入院かは、たいてい撮る前から分かっている。ただ、その違いが病院の収支の向きを変えている、とは考えないと思います。私も考えたことがありませんでした。
国は「作るのをやめられたら困る」と考えて薬価を上げる。病院は「上げてもらった分を請求できるかどうか」で立場が変わる。技師はその両方の下流で、1本を手に取っている。
国が病院に頼んでいること
だから、こういう文書が出ます。今年の3月5日、厚生労働省の医政局から日本病院会あてです。
不採算品再算定を適用された医薬品(※)は、医療上の必要性が高いと考えられる品目であり、その安定供給を継続させていくために、適正な価格で流通することが望まれます。
改定前に必要量を上回る買い込み等が行われると、供給不足が発生し、これらの医薬品を必要とする医療機関・薬局における処方・調剤に支障を来すおそれがあります。医薬品の安定供給を確保するため、買い込みは厳に控えていただき、必要量に見合う適切な量を購入するよう、また、月末に返品して、翌月に買い戻す等在庫調整を目的とした返品は慎むよう
品薄と聞いて多めに押さえておく、が、いちばんやってはいけないことになっています。
発注そのものは薬剤部の仕事で、技師が伝票を書くわけではないと思います。ただ、「足りなくなりそうだから多めに」と最初に言うのは、たいてい使っている側です。
それでも、止まるときは止まる
最後にひとつ。値段を上げれば止まらない、という話ではありません。
ガストログラフインは1mLあたり14.2円が23.3円になりました。64%上がって、基礎的医薬品と不採算品再算定の両方の一覧に載っています。国が二重に支えている薬です。
その薬が、いま止まっています。暫定管理値を超えるニトロソアミン類が検出されたためで、次の入荷時期は決まっていません。保険で使える代わりの薬もありません。値段とは別のところで引き金が引かれました。
値段は、止まりにくくする条件のひとつではあっても、止まらない保証にはならない。
造影剤が値上がりした、というニュースを見たときに、「じゃあうちの病院はどっちだ」まで一歩進めるかどうか。そこだけの話です。撮り方は、何も変わりません。
メーカーが作って、病院に届きます。ここまでは、ふつうの流れです。まだ、誰かが損をしている話ではありません。
品目数の増減は、薬価基準収載品目リストをコードで突き合わせたものです。プロスコープについては販売中止の案内まで確認しましたが、消えた87品目すべての理由を1件ずつ確かめたわけではありません。撤退のほかに、規格の整理や統一名収載の見直しが混ざっている可能性があります。 「国が上げた薬ほど入院で使われている」は、4品目を並べただけです。そう決まっているわけではありませんし、因果も確かめていません。品目を増やすと崩れる可能性があります。 入院と外来の比は、NDBオープンデータの2023年4月から2024年3月の数字です。いまの比ではありません。ガストログラフインが止まっている今は、代わりに別の薬が使われていることもあり得ます。 DPCではない入院(出来高の病院)については書いていません。そこでは造影剤を請求できます。「入院なら病院が払う」はDPCの話です。 健診のバリウムがどこから支払われているかも、途中までしか追えていません。対策型の胃がん検診が健康増進法にもとづく市町村の事業で、保険診療ではないことは確認しました。ただ、委託の単価に薬の値上がりがどう反映されるのかは分かっていません。ここは技師に近い話なので、分かったら別に書きます。 不採算品再算定の対象を選ぶときに「薬価と市場実勢価格の乖離が一定率以内であること」という条件がある、という話もあります。だとすると値引きを求めるほど対象から外れることになりますが、令和8年度の要件の原文までは確認できていません。だからこの記事では「安く買い叩くと対象から外れる」とは書いていません。厚生労働省が実際に書いているのは「適正な価格で流通することが望まれます」までです。
ここまで調べて、少し嫌な感じが残りました。
国が薬価を上げるのは、造影剤が無くなると困るからです。そこは分かります。メーカーに作り続けてもらうために、値段のほうを上げる。
ただ、上げた分を病院が請求できるとは限らない。入院で使えば、そのまま病院が引き受けることになります。助けに行く先と、お金を出す先が違う。
しかも、上げれば止まらなくなるわけでもないです。ガストログラフインは国の一覧に二重に載っていて、それでも今、止まっています。
だからといって、どうすればいいのかは私にも分かりません。
ただ、薬を守るために値段を上げるとき、そのお金を最後に誰が出しているのか。そこまで含めて見ないと、安定供給という言葉だけでは見えないものがある気がしますけど。