熊本に技師が呼ばれたのは15日目。地震のとき、技師は何をするのか
対応は不要です。念のため読んでおいてください。
主任・技師長は、2週間ぶんの穴を、誰がどう埋めるかを決める側です。
公開時点の情報です
8月、熊本の被災地に診療放射線技師が派遣されました。要請が出たのは、地震から15日目です。災害支援ナースは2日後、歯科は6日後に動いているので、技師がいちばん最後でした。遅れたわけではなくて、技師の派遣は「急性期を除く3日以降から1ヶ月」と技師会が自分で決めています。
今すぐやることはありません。ひとつだけ置き換えてほしいのは前提のほうで、自分の施設が被災したとき、外から技師が来るのは2週間くらい先になります。その間は、いまいる人数で回すことになります。
技師が呼ばれるのは、放射線を測るためではありません。止まった検査を動かすためです。だから病院が動きはじめる時期まで出番が来ない。呼ばれる理由と、呼ばれる時期が、ひとつにつながります。
手前の3つは1週間の中に固まっていて、技師の前だけ9日あいています。遅れたのではなく、技師の派遣は「急性期を除く3日以降から1ヶ月」と決められています。
原発の事故でもないのに、放射線技師が被災地に行って何をするのか。
8月、熊本に技師が派遣されました。要請が出たのは、地震から15日目です。
呼ばれた順番
7月28日16時27分に地震がありました(気象庁・M7.1・最大震度7)。そこから、職種ごとに動いた日が違います。
- 7月29日 — 臨床検査技師会が災害対策本部を設置
- 7月30日 — 災害支援ナースが県内の医療機関へ
- 8月1日 — 臨床検査技師会が県の調整本部に連絡員を派遣
- 8月3日 — 歯科(JDAT)の派遣開始。災害支援ナースが避難所へも
- 8月12日 — 熊本県から国へ、国から技師会へ、技師の派遣要請
- 8月18日 — 技師会「派遣者を選任し、支援にあたっていただいた」
手前の3つは1週間の中に固まっていて、技師の前だけ9日あいています。遅れたのではなく、技師の派遣は「急性期を除く3日以降から1ヶ月」と決められています。
8月7日時点の厚生労働省の対応報(第42報)を最後まで読みました。看護、歯科、精神科、福祉、保健師——どれも出てきます。診療放射線技師という言葉は、一度も出てきません。
技師は、いちばん最後でした。
遅れたのではなくて、そこが枠です
技師会の行動マニュアルに、こう書いてあります。
派遣時期は基本的に、急性期を除く発災後3日以降から1ヶ月とする。
急性期は、はじめから外してあります。 誰かが手を抜いたのではなく、技師会が自分でそう決めている。今回の8月12日は発災から15日目で、窓のちょうど真ん中でした。
1人あたりの派遣は、移動を含めて3泊4日までです。
何をしに行くのか
マニュアルが挙げている活動は6つあります。
①災害医療および救護活動 ②放射線汚染状況の測定および除染 ③Ⅹ線および超音波検査 ④被ばく相談 ⑤医療施設での放射線関連業務支援 ⑥その他、必要な支援活動
②と④は、原子力災害のための項目です。 地震では出番がありません。残るのは③と⑤で、技師会が今回の要請を説明した言葉も「被災地域の診療支援」でした。

隣の職種と比べると、輪郭が出ます。臨床検査技師にはDVT検診があります。避難所で座ったまま下肢にエコーを当てて、エコノミークラス症候群を拾う。避難生活そのものが作る健康被害を防ぐ仕事なので、避難所ができた時点で出番が来る。だから8月1日から動いています。
技師の側には、それに当たるものが自然災害では無いです。行くのは、被災した病院の止まった検査を動かすため。 病院が動きはじめないと出番が来ないので、順番が後ろになります。
「原発でもないのに何をするのか」の答えは、たぶんここです。放射線を測りに行くのではなく、人手として行く。
病院を止めていたのは、停電ではなく水でした
厚生労働省の第42報(8月7日12時時点)に、熊本県内で被害の報告があった医療施設の表が載っています。
| 最大 | 8月7日時点 | |
|---|---|---|
| 被災した医療施設 | 92 | 35 |
| うち停電 | 22 | 0 |
| うち断水 | 88 | 30 |
| うち医療ガス | 13 | 1 |
**停電は10日で全部戻っています。**最大でも22施設でした。残っていたのは断水のほうで、最大88施設。8月7日でもまだ30施設あります。
水で止まる装置があります。冷却に水を使うもの。ただ、方式は施設によって違うので、断水したら撮れなくなる、と一般化できるだけの裏付けをこの記事は持っていません。 そこは自分の施設で確かめてもらうしかないです。
確かなのは、地震で病院を止めていたのは電気ではなく水だった、というほうです。
外から来る助けは、遅くて、小さいです
来る側の総量も見ておきます。
災害のときに派遣される技師は、平時に名簿へ登録している人の中から選ばれます。その名簿が、技師会の事業報告書で延べ377名。会員が33,272人なので、その1%くらいです。会員の外にも技師はいて、全国では59,264.6人(常勤換算)。技師会の組織率は56.1%と報告書に書かれています。
そして1人が居られるのは3泊4日。
出す側にも余裕がありません。100床未満の病院は全国に2,916施設あって、全病院の35.9%を占めます。そこの技師は1病院あたり常勤換算で1.1〜2.3人です(令和5年医療施設静態調査)。1人分の施設から、4日間は出せない。
**登録が少ないのは、関心が低いからではないと思います。**出せるかどうかが、施設の人数で先に決まっている。
で、技師は何を考えるか
行くか行かないか、ではないと思います。考えることがあるとすれば、うちが被災したときの、最初の2週間のほうです。
今回、外から技師が入るまでに15日かかりました。それは誰かの落ち度ではなく、そういう設計です。次も、たぶん同じくらいかかります。
その2週間は、いまいる人数で回ります。断水したときに何が止まって何が動くのか。夜間に1人しかいない時間に何が起きるのか。ここから先は施設ごとに違うので、この記事では答えを持っていません。
ひとつだけ言えるのは、「災害のときは応援が来る」を前提に置いていると、置き方を間違えるということです。来ます。ただし遅くて、小さい。
なお、名簿のほうに入っておきたい場合は、技師会の会員であれば登録できます。福岡県技師会は「JARTISのマイページの会員情報内に登録フォームを設けた」と案内しています(2025年1月)。ただしJARTISは7月28日に入れ替わっていて、旧のログインID・パスワードは引き継がれません。まずログインできるかから、になります。
登録しても必ず行くことにはならない、とも技師会は書いています。実際に推薦されるには、実務3年以上と、所属長の承諾が要ります。承諾のほうは、要請が来てから取りに行くのでは間に合いません。
今回の派遣の中身が分かりません。何人が、どこの施設に入って、何をしたのか。8月18日のお知らせには書かれていません。翌19日のページは「必要な対応を進めています」と続いている書き方なので、いま続いているのかどうかも、どちらとも読めます。 厚生労働省の対応報も、原本を取れたのは8月7日の第42報までです。派遣要請が出た8月12日以降の報に、診療放射線技師の記載があるかどうかは確かめられていません。 断水と画像の装置の関係も、この記事では踏み込んでいません。冷却に水を使う装置はありますが、方式は施設によって違います。「断水したから撮れなくなる」と一般化できるだけの裏付けを持っていないので、厚生労働省が出している施設数までにしています。 もうひとつ、事業報告書の「延べ377名」の「延べ」が、これまでの累計なのか、いま有効な登録者数なのかも書かれていません。この記事では原文のまま「延べ377名」と書いています。分かったら、この記事を更新します。
技師をやっていたころは、「災害派遣」と聞くと、もっと特別なことをしに行くんだと思っていました。現地でしか要らない技術があって、それを持っている人が呼ばれるんだろう、と。
実際は、穴埋めでした。向こうの現場で足りなくなったところに入る。しかも15日後で、3泊4日です。
来ないよりは、ずっといいと思います。ただ、それで全部なんとかなる話でもない気がしますけど。